公立学校では今、教員のなり手不足や長時間勤務の削減といった課題を抱えている。解決に向けた筋道をどう立てるのか。3月に中央教育審議会の会長に就任した橋本雅博・住友生命保険取締役会長に聞いた。
―学校では時間外勤務の削減が思うように進まず、精神疾患による休職者も増加し続けています。働き方改革をどのように推進すべきでしょうか。
中教審の委員となり、実態を聞いて意外だったことの一つは、既に国が教員の業務整理のために学校の業務を分類しているのに、それが実行に移されていないことでした。企業と学校は組織が異なるため単純には比較できませんが、それにしてもこれほど計画が練られているのに、なぜ進まないのか不思議に感じました。
聞いてみると、学校単体では良い取り組みがあるのに、それが全国になかなか広まらない。企業と違って競争原理が働きにくいからでしょうが、頑張っている学校を見て、「自分たちも取り組まなければ遅れてしまう」と思うような仕組みをつくらないと大きなうねりにはなりません。その意味で、国会で審議中の給特法改正案にも明記されている、教育委員会の取り組み状況を「見える化」することは良いことです。
―教員志願者の不足が深刻です。国内では多くの業種で人手不足が起きていますが、優秀な教員を確保するために何が必要でしょうか。
民間企業と教員の世界の「優秀さ」は異なります。決してビジネスマンとして優秀な人を教員にすればよいわけではありませんが、採用戦線という観点で見れば、企業と学校が競争関係にあることは否定できません。現状で学校の労働条件はあまりにも不利なので是正は必要です。
今の若者は、働くことをドライに考えていて、われわれが働き始めたときとはビヘイビア(振る舞い)も全く違います。出世して給料を上げるために頑張ろうと考える人はどちらかというと珍しく、自分の趣味の時間を確保できるか、家族との生活を楽しめるか、ということをシビアに見極めます。そういう意味では、ミスに目くじらを立てるようなことをしていると若者はやってきません。
また、もし「教職は聖職である」という旧来的な考え方がまだ残っているなら、それは改めた方がよいでしょう。働きやすさを整えたり、働き方の選択肢を増やしたりすることが必要です。
―教員の確保に関わって、中教審の会議では、民間企業から学校に人を呼び込めるような体制整備を進めていきたいとお話ししていました。どのようにしますか。
これは簡単ではないので、草の根的に増やしていくしかありません。特別免許状や教員資格認定試験などの制度面の整備は、文科省がしっかりやっているのですが、問題はそこを目指す人をどうやって増やすかです。
一つの方法は、企業人が授業する機会をつくるなど、学校との接点を設けることです。わが社(住友生命保険)も、社員が大阪の公立中学校で1年間、探究学習の講座を持っていて、ビジネスプランニングの授業をしています。最終日の討論会を見に行ったのですが、とても活発な議論をして楽しんでいるようでした。こうして企業と学校の接点を持つことで、学校に対する関心は高まっていくはずです。
―中教審の会長として、任期中に進めていきたいことは何ですか。
現在、中教審で学習指導要領の改訂に向けた議論をしていますが、その内容をより分かりやすく発信していきたいと考えています。学校現場の先生が学習指導要領を意外に読んでいないと聞いて驚きました。企業でも、経験を積んだベテランほどマニュアルを読みませんが、それは非常に危険です。社長時代に、言い伝えで仕事をしないように社員に呼び掛けました。時代が変わって顧客の意識も法令も変わっているのに、昔のやり方のままだと苦情や法令違反につながります。
文書になっておらず、口頭で伝わっていることほど、変えるのが難しいのです。学校現場にも同じようなことが、きっとあると思います。